アンパンマンに死の概念を持ち込んだやなせたかし先生

©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV より
あの有名な子供向け番組の『それいけ! アンパンマン』の生みの親として知られるやなせたかし先生。
優しい人柄で、絵本作家、漫画家、作詞家、演出家などで活躍され、2013年に94歳の長寿を全うされて亡くなられました。
アンパンマンを初めて観た時、「ぶんちゃっぶんちゃっ」という、親しみやすいオープニング『アンパンマンのマーチ』のリズムに、子供達がタンバリンやカスタネットで合唱・合奏しやすそうな良いメロディーだなと聞いていたのですが・・・。
「解からないまま終わる」「時は速く過ぎる 光る星は消える」のくだりでどびつくり。
「終わる」「消える」―――子供向きのアニメに時の流れや死の概念が入るなんて!
死とは、少し決めつけすぎだろう。と思われる方もおられるかもしれません。
しかし、日中戦争で徴兵されて中国へ出征した先生の従軍経験と照らし合わせると、現代とは違い飢餓や少しの体調不良、怪我がそのまま死に直結していた環境でした。ご本人もひもじさが本当に辛かったと語っておられます。
この歌詞はそんな先生の死や飢餓への恐怖、嫌悪感がぬぐいきれずに滲み出たのでは・・・。
私はそのように想像しました。
歌詞全体は、痛みを抱えながらも強く逞しく生きるアンパンマンと視聴者への明るい応援歌となっていますが、何か軍歌に底通する匂いがあるなとも感じていました。同じ戦争で弟さんを特攻隊員として亡くされ、その弟さんに捧げた歌だという説があると知り、納得しました。
そしてアニメ本編を見てさらにびつくり。
今度はまた違った意味で。
アンパンマンはおなかがすいてる子に自分の顔をちぎって差し出す。
顔が水に濡れて元気が出なくなったピンチの時にはバタ子さんが予備の顏を投げ、首から上がすげ変わる。
そして元気を取り戻すwww
最先端の医療技術でようやく心臓その他の内蔵、腕などの移植手術の成功率が高まってきたばかりだというのに・・・。
ファンタジーはいとも簡単に現代科学を超える。
自分の感性がいつしか大人になってしまったのかという淋しさはありましたけれど、それだけに子供心を失わないやなせたかし先生には大いに感銘を受けました。
考えてみれば、巷では色々なヒーローものの漫画やアニメが出回っていますが、大抵強くてカッコ良さそうなモチーフと合体されてシャープな造形のキャラデザインが施されています。
だのに先生はよりによってあんぱんw。
攻撃性のない、丸~い平和な食べ物。
なんでやねん。
異色のヒーロー像です。
しかし後に、その裏には前述のようにひもじい経験をなさった所から、「本当のヒーローなら自らを傷付けてでも、空腹に困っている人に食べ物を差し出す」というご自分のヒーロー観をアンパンマンにこめたという逸話があったと知って切なくなりました。
「手のひらに太陽を」の作詞もしておられますが、その歌詞にも悲しみに触れるような一節がありました。
やなせ先生は、たとえ子供向けの作品であっても自らの過酷な体験を隠しはせずに、他人の痛みにも自分の痛みにも正面から向き合い、生きる苦しさや意味を品の良さと優しいユーモアでくるんで子供たちに提示し続けた、信念のお方でした。
様々なジャンルを横断して活躍されて天に召され、弟さんと再会できたでしょうか。
ご冥福をお祈り致します。
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